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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)339号 判決 1999年5月27日

大阪府高槻市幸町1番1号

原告

松下電子工業株式会社

代表者代表取締役

森和弘

訴訟代理人弁理士

斎藤瞭二

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

西本幸男

森本敬司

小池隆

主文

特許庁が平成6年審判第19648号事件について平成10年9月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  請求

主文と同旨の判決

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成5年4月8日、意匠に係る物品を「蛍光ランプ」とし、その形態を別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)別紙第一のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)について、意匠登録出願(平成5年意匠登録願第10619号)をしたが、平成6年9月28日拒絶査定を受けたので、同年11月21日拒絶査定不服の審判を請求した。

特許庁は、同請求を同年審判第19648号事件として審理した結果、平成10年9月18日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年10月7日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は、審決書に記載のとおりであり、審決は、本願意匠(審決書別紙第一)は引用意匠(審決書別紙第二。意匠登録第600087号)に類似する意匠であって、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができないと判断した。

第3  審決の取消事由

1  審決の認否

(1)  本願意匠(審決書2頁2行ないし6行)及び引用意匠(審決書2頁7行ないし12行)は認める。

(2)  本願意匠と引用意匠の比較(審決書2頁13行ないし3頁17行)中、意匠に係る物品が一致すること(審決書2頁14行)は認める。

共通点の認定(1)(審決書2頁17行ないし3頁2行)は争う。

共通点の認定(2)(審決書3頁2行ないし6行)のうち、本願意匠の口金ケース部の高さがグローブ部及び外径の長さとほぼ等しいことは争い、その余は認める。本願意匠の口金ケース部の高さはわずかに短いものである。

差異点の認定(ア)(審決書3頁7行ないし13行)は認める。

差異点の認定(イ)(審決書3頁13行ないし17行)は争う。

(3)  類否の判断(審決書3頁18行ないし5頁3行)は争う。

(4)  まとめ(審決書5頁4行ないし6行)は争う。

2  取消事由

審決は、本願意匠と引用意匠の共通点、差異点についての認定を誤り、共通点及び差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響についての判断を誤った結果、両意匠は類似すると誤った結論に至ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  共通点、差異点の認定の誤り

<1> 共通点(1)についての認定の誤り

審決は、両意匠の共通点として、「(1)全体が、円筒形状の胴部の上端部を略半円球状としたグローブ部と、グローブ部に続く下方を略半球状とし、さらにその下方に螺旋状のねじ込み部を有する口金を表した口金ケース部とを係合一体化した、略楕円球体状である点」(審決書2頁17行ないし3頁2行)を認定するが、誤りである。

(a) 引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が面一(つらいち)状に連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上下対称形に構成されるものであるから、全体としてほぼ楕円球体状と認定することに誤りはない。

(b) これに対し、本願意匠は、グローブ部とは明確に区別して認識される漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、両者が係合一体化してほぼ楕円球体状をなすというものではない。

すなわち、本願意匠の口金ケース部は、グローブとの接合部であるケースの最上端部に細幅で帯状の環状面を形成し、その下方のケースの上半分をふくらみを少なくして傾斜面状に形成される凸曲面とし、その下方のケースの中間部を反円弧状の曲面で形成される凹曲面として、上半分の凸曲面に連続した反曲面に形成し、その下方に逆円錐台状の筒体を延設した態様のもので、口金ケース部の全体が漏斗状をなすものである。したがって、本願意匠の口金ケース部の形状は、グローブ部の形状と基本的な構成そのものが相違するものであり、グローブ部と対称的な形状に構成されているものではない。

<2> 差異点(イ)についての認定の誤り

審決は、各部の具体的な態様における差異点として、「口金ケース部につき、本願意匠は、半球状部分と口金との間に半球部とほぼ同じ程度の高さの首部を有するのに対して、引用意匠は、極めて低い高さの首部が表されている点」(審決書3頁7行、8行、13行ないし16行)を認定するが、誤りである。

審決は、上記首部の相違をほぼ楕円球体を形成し、基本を同じくする両意匠の構成における部分的差異と扱うが、本願意匠と引用意匠とは基本的形状を異にするものであり、上記首部の差異は基本的形状を同じくする構成においての部分的差異ではない。

(2)  類否判断の誤り

<1> 共通点について

審決は、「共通点について、(1)及び(2)の点は、両意匠の基本的な形状であって、両意匠の基調を決定付けているものであるから、その影響は、大きく、全体として相当のものと言うべきである。」(審決書3頁末行ないし4頁3行)と判断するが、誤りである。

本願意匠の口金ケース部の形状は引用意匠のそれとは全く相違するものであるから、この点をも共通することを前提とする審決の上記判断は、前提自体誤ったものであり、正しいものではない。

<2> 差異点(ア)について

審決は、差異点(ア)について、「いずれも共通点(1)の中に埋没しており、特に口金ケース側の区画の有無についてみても、仔細にみれば判別できる程度の形状(口金ケース部にグローブ部を係合する部分の面に切り替えによる稜線)を図面上に表現したものに過ぎず、細部の差異に止まり、結局これらの影響は微弱に過ぎないものと言える。」(審決書4頁4行ないし11行)と判断するが、誤りである。

グローブ部と口金ケース部の接合部に溝状凹陥部を有しているか否かの差異、及び口金ケース部の最上端部の周側に極細幅の区画を有するか否かの差異という差異点(ア)は、特に本願意匠においては、口金ケース部全体の形状と一体となって、グローブ部とはっきり区画される口金ケース部を印象づける要素となっているもので、単に図面上の相違に止まるものではない。

<3> 差異点(イ)について

審決は、差異点(イ)について、「この点のみを注視すると、確かに差異点ではあるが、共通点(1)がある中での部分的な形状の差異であって、その差異に係る本願意匠のその形状が特段の特徴があるものでもなく全体としてその影響は、軽微に止まるものである。」(審決書4頁11行ないし16行)と判断するが、誤りである。

審決が首部と指摘する構成は、本願意匠にあっては口金ケース部の大部を占める構成で、その形状自体が口金ケース部の形状を形作るものとなっているもので、部分的ないし軽微な差異ではない。

被告は、この種物品の一般的な使用状態である天井等に設置したソケットにねじ込んだ態様において、首部はグローブ部及び口金ケース部の凸曲面とした部分の後方に隠れて見えなくなることが多く、さらに、点灯時においては、グローブ部のみが光ることにより、首部はもとより口金ケース部全体が更に目に付きにくくなる旨主張するが、看者の注意を惹くのは、使用時に限定されるものではないし、むしろ、その物品の購入時においてこそ、物品自体の形状に注意が向くものと考えるべきであるから、被告の上記主張は失当である。

<4> 類否判断の誤り

審決は、「両意匠は、差異点が共通点を凌駕するものとは言えず、結局、本願の意匠は引用の意匠に類似するものと言わざるを得ない」(審決書4頁末行ないし5頁3行)と判断するが、誤りである。

引用意匠の形態的特徴は、グローブ部と口金ケース部について、端部を同じ曲率の円弧の回転面による凸曲面で構成し、全体の基本形状を上下対称形に構成し、さらに、グローブ部と口金ケース部の接合の態様について、表面を面一状に連続して一体的に構成した態様にある。

これに対し、本願意匠は、口金ケース部について、ケースの最上端部に細幅で帯状の環状面を形成し、その下方のケースの上半分をふくらみを少なくして傾斜面状に形成される凸曲面とし、その下方のケースの中間部を反円弧状の曲面で形成される凹曲面として上半分の凸曲面に連続した反曲面に形成し、その下方に逆円錐台状の筒体を延設した態様とし、この口金ケース部の上方に、上端部を半円球状とし、胴部を円筒状とするグローブ部を口金ケース部とはっきり区別される態様に構成したもので、引用意匠とは形態構成の基本が異なるものである。

第4  審決の取消事由に対する認否及び反論

1  認否

審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  共通点、差異点の認定の誤りについて

<1> 共通点(1)についての認定の誤りについて

電球についての意匠法上の認定の観点は、その電球の取引時、使用時において通常目にする複数の角度から見た立体形状として観察することを要する。しかも、電球というものが、通常の使用時において、2つの意匠を並置して各部を対比観察するようなことは少なく、異なる時、異なる場所において視覚を通して脳裏に映るその美的な姿を比較するべきである。

審決は、両意匠に係る形態をまず上半分のグローブ部、下半分の口金ケース部に分け、次に、グローブ部と口金ケース部の上方部で形成する一塊の部分を視覚に最も訴える大きな重要な部分と捉えて認定しているものである。そうして、この塊の全体を認定するに当たって、中央境界部分を意識して、上半分を円筒形状の胴部の上端部をほぼ半円球状としたものと捉え、下半分をほぼ半球状と捉えた後で、これらをまとめてその塊の全体についてほぼ楕円球体に近い形と見ることができるものとして、「ほぼ楕円球体状」と認定したものであって、この点に何ら誤りはない。

<2> 差異点(イ)についての認定の誤りについて

審決は、首部については、楕円球体状部とは離れて、別途差異点として認定しているものであり、上記<1>のとおり、共通点(1)についての認定に誤りがない以上、差異点(イ)の認定にも誤りはない。

(2)  類否判断の誤りについて

<1> 共通点について

全体の形状が比較的単純な両意匠にあって、まず一見感得される態様は、グローブ部と口金ケース部の首部を除く上方部とで形成されるほぼ楕円球体状部であるから、審決の共通点に基づく判断に誤りはない。

<2> 差異点(ア)について

これらの点の差異は、立体全体の中で見ると、共にさほど目立たないものである。

また、溝状凹陥部の点の差異は、例えば、実施物により近い図面表現をした場合、本願意匠のようにグローブ部と口金ケース部の接合部に筋状の溝が極めて普通に現れるものであること(乙第1号証の1ないし3参照)から明らかなように、図面表現上の誤差程度のものにすぎないものであり、この点の審決の判断に誤りはない。

<3> 差異点(イ)について

審決は、両意匠にあっては、まず全体の中で一見目に付くほぼ楕円球体状の塊を認定して、首部をこれに連続する二義的な部分の態様の差異と捉え、全体から見て部分的で軽微なものと判断しているものである。すなわち、この種物品の一般的な使用状態である天井又は壁面等に設置したソケットにねじ込んだ態様において、首部は、グローブ部及び口金ケース部の凸曲面とした部分の後方に隠れて見えなくなることが多く、さらに、点灯時においては、グローブ部のみが光ることにより、首部はもとより口金ケース部全体が更に目に付きにくくなるものである。そうすると、審決のこの点の判断に誤りはない。

また、審決が「特段の特徴があるものでもな(い)」(審決書4頁14行、15行)としたのは、本願意匠の首部の態様自体、電球として一般的に見られる態様であるから、その面積に比して、低く評価されるべきことを述べているのであって、審決のこの点の判断にも誤りはない。

理由

1  争いのない事実

(1)  本願意匠の認定(審決書2頁2行ないし6行)及び引用意匠の認定(審決書2頁7行ないし12行)は、当事者間に争いがない。

(2)  そして、両意匠の意匠に係る物品が一致すること(審決書2頁14行)も当事者間に争いがない。

2  共通点、差異点の認定について

(1)  共通点(1)、(2)について

<1>  引用意匠のグローブ部の高さ、口金ケース部の高さ及び外径の長さがほぼ1対1対1の比率で、それぞれが口金の径のほぼ3倍であることは、当事者間に争いがない。

そして、前記当事者間に争いのない引用意匠の形態(審決書別紙第二参照)によれば、引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上下対称形に構成されているものと認められる。

<2>  これに対し、前記当事者間に争いのない本願意匠の形態(審決書別紙第一参照)によれば、本願意匠のグローブ部の高さ、口金ケース部の高さ及び外径の長さはほぼ1対0.86対1の比率で、グローブ部の高さや外径の長さは口金の径のほぼ3倍であると認められる(一部は当事者間に争いがない。)。

そして、前記当事者間に争いのない本願意匠の形態によれば、本願意匠のグローブ部と口金ケース部との係合部にはわずかに溝状凹陥部があり、口金ケース部については、グローブ部との係合部である口金ケース部の最上端部に極細幅で帯状の区画(環状面)を形成し、その下方の口金ケース部の上方部はふくらみを少なくして傾斜面状に形成される凸曲面とし、その下方のケースの中間部は反円弧状の曲面で形成される凹曲面として、上方部の凸曲面に連続した反曲面に形成し、さらにその下方に逆円錐台状の筒体を延設した態様のもので、口金ケース部の全体が漏斗状をなすものと認められる。

そうすると、本願意匠は、漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、グローブ部と口金ケース部とが上下対称形に形成されたものではない。

<3>  以上によれば、引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上下対称形に構成されているのに対し、本願意匠は、漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、グローブ部と口金ケース部とが上下対称形に形成されたものではない点で、基本的形状を異にするものであり、審決の共通点(1)の認定、及び共通点(2)の認定のうち口金ケース部の高さの比率の認定は誤りであるといわなければならない。

(2)  差異点(ア)について

差異点(ア)の認定は、当事者間に争いがない。

(3)  差異点(イ)について

差異点(イ)は、前記(1)に説示のとおり、本願意匠と引用意匠との基本的形状の差異の一部と扱われるべきものと認められる。

3  類否の判断について

(1)  基本的形状の差異

前記2(1)に説示のとおり、引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上下対称形に構成されているのに対し、本願意匠は、漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、グローブ部と口金ケース部とが上下対称形に形成されたものではない。

この基本的形状の差異は、取引時、使用時に看者の注意を惹き、両意匠の類否の判断において大きな影響を有するものと認められる。

(2)  差異点(ア)について

そして、グローブ部と口金ケース部との係合部につき、本願意匠がわずかに溝状凹陥部を有している点は、口金ケース部最上端部の極細幅の区画(環状面)とともに、本願意匠が漏斗状の口金ケース部の上に上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のものであることを強調するものと認められ、引用意匠が溝状凹陥部や極細幅の区画を有しない点は、引用意匠が上下対称形に構成されていることを強調するものと認められる。

被告は、溝状凹陥部の点の差異は、図面表現上の誤差程度のものにすぎないものである旨主張するが、審決書別紙二の「内部機構の概略を示す正面図中央縦断面図」によれば、引用意匠においては、グローブ部と口金ケース部の表面を面一状に連続して形成することを意図した構造を採用しており、前記のような上下対称形の全体的構成と相まって、シンプルな印象を与えるものとなっていることが認められ、この事実によれば、溝状凹陥部の点の差異が図面表現上の誤差程度のものと認めることはできず、被告の上記主張は採用することができない。

(3)  以上のとおり、本願意匠と引用意匠との間には、基本的形状の差異及び具体的な態様における差異点があるから、両意匠が円筒形状の胴部の上端部をほぼ半円球状としたグローブ部の形状が共通していることを考慮しても、両意匠が看者に与える印象は異なっており、本願意匠を引用意匠に類似する意匠と認めることはできない。

(4)  被告の主張に対する判断

被告は、電球についての意匠法上の認定の観点は、その電球の取引時、使用時において通常目にする複数の角度から見た立体形状として観察することを要し、異なる時、異なる場所において視覚を通して脳裏に映るその美的な姿を比較するべきである旨、さらに、電球の一般的な使用状態である天井又は壁面等に設置したソケットにねじ込んだ態様において、首部は、グローブ部及び口金ケース部の凸曲面とした部分の後方に隠れて見えなくなることが多く、さらに、点灯時においては、両意匠の共通する形状をなすグローブ部のみが光ることにより、首部はもとより口金ケース部全体が更に目に付きにくくなるものである点を考慮すべきである旨主張する。

確かに、蛍光ランプを含む電球の一般的な使用状態である天井や壁面などに設置したソケットにねじ込んだ態様においては、首部は口金ケース部の凸曲面等の後方に隠れて見えにくくなり、さらに、点灯時においてはグローブ部が光るため口金ケース部全体が更に目に付きにくくなるものと認められる。しかしながら、電球が流通過程に置かれ取引の対象とされるときには、首部を含む口金ケース部も取引者、需要者の注意を惹く部分であると認められる。さらに、使用時についても、電球の使用状態には様々なものがあり、口金のみをソケットにさし込んで電球を水平方向や上向きに設置して使用するため、口金ケース部の首部も看者の注意を惹く状態で使用される場合も少なくないと認められる。そうすると、口金ケース部の形状も蛍光ランプの意匠としての印象に与える影響は相当あるというべきであり、口金ケース部の形状の差異が離隔的な判断において影響が少ないものであると認めることはできないから、被告の上記主張は採用することができない。

4  結論

以上によれば、本願意匠は引用意匠に類似するものといわざるを得ない旨の審決の判断は誤りであり、審決は取消しを免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成11年4月22日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

理由

本願は、平成5年4月8日の意匠登録出願であって、その意匠は願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「蛍光ランプ」とし、形態は別紙第一に示すとおりとしたものである。

これに対し、当審で拒絶の理由において引用した意匠は、本願の出願前の昭和58年5月4日に発行された意匠公報所載の意匠登録第600087号の図面及び書誌事項の記載により表された「蛍光ランプ」の意匠であって、その形態は別紙第二に示すとおりとしたものである。

そこで本願の意匠と引用の意匠を比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致しており、形態において主として以下に述べる共通点、差異点が認められる。

即ち、まず共通点として(1)全体が、円筒形状の胴部の上端部を略半円球状としたグローブ部と、グローブ部に続く下方を略半球状とし、さらにその下方に螺旋状のねじ込み部を有する口金を表した口金ケース部とを係合一体化した、略楕円球体状である点、各部の具体的態様において、(2)全体の大きさの比率において、グローブ部の高さ、口金ケース部の高さ及び外径の長さが略1対1対1の比率で、それぞれが口金の径の略3倍である点、が認められる。

次いで差異点として各部の具体的な態様において、(ア)グローブ部と口金ケース部との係合部につき、本願意匠は、僅かに溝状凹陥部を有しているのに対して、引用意匠は、それが無い点、及び同部口金ケース側につき、本願意匠は、周側に極細幅の区画を有するのに対し、引用意匠はそれが無い点、(イ)口金ケース部につき、本願意匠は、半球状部分と口金との問に半球部とほぼ同じ程度の高さの首部を有するのに対して、引用意匠は、極めて低い高さの首部が表されている点、が認められる。

そこで上記共通点、差異点等が両意匠の類否判断に及ぼす影響について以下に検討する。

まず共通点について、(1)及び(2)の点は、両意匠の基本的な形状であって、両意匠の基調を決定付けているものであるから、その影響は、大きく、全体として相当のものと言うべきである。

次いで、差異点について、(ア)の点は、いずれも共通点(1)の中に埋没しており、特に口金ケース側の区画の有無についてみても、仔細にみれば判別できる程度の形状(口金ケース部にグローブ部を係合する部分の面の切り替えによる稜線)を図面上に表現したものに過ぎず、細部の差異に止まり、結局これらの影響は微弱に過ぎないものと言える。(イ)の点は、この点のみを注視すると、確かに差異点ではあるが、共通点(1)がある中での部分的な形状の差異であって、その差異に係る本願意匠のその形状が特段の特徴があるものでもなく全体としてその影響は、軽微に止まるものである。

そうすると、上記差異点は、これらが纏まったとしても、全体としてその類否判断に及ぼす影響は、軽微以下のものと言うべきである。

以上の通りであって、両意匠は、差異点が共通点を凌駕するものとは言えず、結局、本願の意匠は、引用の意匠に類似するものと言わざるを得ない。

従って、本願の意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同条同項柱書きの規定により、意匠登録を受けることができないものである。

よって、結論の通り審決する。

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品 蛍光ランプ

<省略>

別紙第二 引用の意匠

意匠に係る物品 螢光ランプ

説明 本物品は螢光灯のランプ、安定器等が内蔵されているため白熱ランプ等のようにソケツトにねじ込むことにより点灯できるものである。本物品の管球部は透光体である。

<省略>

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